イエローナイフは朝

それが人生

葬儀の仕事に対して「偉いね」って何が偉いの?

葬儀業界に勤めてる、という話をすると、7割くらいの確率でこの会話が生まれる。

「今何の仕事してるんだっけ?」

「葬儀業界だよ」

「葬儀やってるの!?へぇ~すごいね、偉いねぇ

あるいは、親戚と集まったときに、

「お葬儀の仕事してるんだって?」

「そうなんですよ」

「そっか~、でも偉いわよねぇ、葬儀の仕事してるなんて」

 

メッチャ偉い偉い言われる。

 

その会話があまりにも多いので、いつも「なんで?」って聞いてる。

そうすると、

「だって、いつもそんな悲しい現場にいるなんて……」

「皆やりたがらない仕事を率先して選ぶなんて、すごい」

「人の死とか苦手だから絶対無理」

「仕事でそんな重いのはしんどい」

「身内のだって耐えられないのに、他人のも見なきゃなんて考えられない」

 

大体こんな感じ。

あ、ちなみに身内の葬儀の方が圧倒的にしんどいので、他人の葬儀に関しては何も感じません。というかいちいち感じてたら仕事出来ない。そりゃ人によっては少し感じることはあるけど、完全に仕事スイッチ入れて集中してるから涙は流れないので、最後のは少し的外れ。

あとは、私がまだ年齢的には若い部類に入るというのもあって、枕詞に「まだ若いのに」と付くことも多い。

 でも、若いとか関係なくない?というか、偉いって何だろう?

そういう人達は、一日走り回って営業活動をしている人や、汗を流しながら必死に建築現場で動いてる人達のことも一緒に偉いと言うことはほとんどない。

何故なら、「葬儀というのは人が忌み嫌う仕事で、それをわざわざ選んでやっている」ということが根底にあるから。そこから来る「偉い」という言葉なので、この文脈からだと不動産だとか医療事務だとか、そういう職業に就いてる人達に向けられることはない。

「偉い」と口にしている人達は、自分達が無意識に差別のような意識を持っていることに気付いていないかもしれない。でも、人間は死に関係する出来事には遠ざかる傾向があるので、当然と言えば当然かもしれない。

 でも、この「偉い」というのは本当に勝手な言葉だと思うことがある。例えば、葬儀屋には「偉いねぇ」と言えるけど、特殊清掃員やってますと言ったらどうなるんだろう。おそらく、大多数の人が「えっ……」とドン引きするんじゃないか。そこに真っ直ぐと「偉いね」の言葉がかけられることはない気がする。

この「偉いね」というのは、「自分の範疇の中で遠ざけたい仕事を選んでいる人に対して向ける言葉」であって、同時に「自分が許容できる範囲内での仕事に向けられる言葉」でもある。

 ここまで言ってしまったけど、勿論これは主観的な意見なので、人によって違うとは思う。ただ、葬儀屋に向ける「偉い」という言葉は、他の職種に向けて言う「偉い」と種類がかなり異なるんじゃないか、といつも思っていた。

 

そもそも、偉いという言葉があまり好きじゃない気もする。

なんだか上目線に感じるし、自分は関係ないですという感じがひしひしと伝わってくる。

「葬儀やってるの?偉いねぇ~(自分はやらないけど)」

みたいな。(被害妄想入ってるかもしれないけど)

いや、別に全然良いんですよ。決して葬儀屋やれとか言ってるわけじゃないし、葬儀屋好きでやってるわけだし。ただ、偉いって何なんだろうってずっと引っかかってた。

 自分からしたら、自分以外の仕事してる人は皆すごいと思う。事務作業でずっとエクセルに入力していく仕事とかやったら3分でハゲるだろうし、芸能人とかでテレビに出てる人は皆すごいストレスと戦ってそうだし、新聞書いてる人なんかは毎日毎日あの決まったスペースにぎっしり文字を埋める仕事してて尊敬するし、自分が出来ないことをやってる人達は皆すごい。そうやって自分がやりたくない仕事を他の人がやってくれてるから世の中は回ってるわけだし、感謝しなくちゃなんだろうと思う。

 多分、葬儀屋に対して「偉いね」と言う人達も、この感情と似てる部分があるんだと思う。

「私は葬儀の仕事とかできないし、誰かがやらないといけない仕事だもんねぇ」

と言われたこともある。

それを聞いて、「あぁ、きっと同じ感情なんだろうなぁ」とは思った。

 

葬儀という仕事が好かれてないことは分かってる。ぼったくりだとか言われるし、人の死がなければ仕事にならない。そりゃ昔に比べたら「終活」という言葉が生まれたりして、自分の最期をどう迎えたいか、なんていうエンディングプランが組まれる時代にもなってきたし、皆死に対して前向きになってきている。

それでも、忌み嫌われる仕事というのは簡単には消えないし、死に向き合うのは難しい。だから、受け入れてほしいとは言わないけど、自分に関係ないようには言わないでほしい。

自分の大事な人が亡くなったら絶対に関わりを持つ職業だし、死は誰にとっても他人事ではないから。