イエローナイフは朝

それが人生

シリアルキラー展Ⅱ前期・後期に行ってきた

www.vanilla-gallery.com

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2016年に初めてヴァニラ画廊で展覧会が開催されてから、もう一度行きたくてたまらない展示会だった。また今年も開催される、しかも前期と後期で作品を分けて開かれると聞いて、どちらも絶対行こうと決めていた。

2016年の時は、Twitterシリアルキラー展の情報を知った。その前にエドワード・ゴーリーの展覧会にも行っていたので、元々ヴァニラ画廊のことは知っていた。その後に開かれたラブドール展も最高だった。ヴァニラ画廊はこういったアブノーマルな展覧会ばかりを開いていて、それが私の性癖と非常にマッチしているのでありがたい限りである。いつもありがとうございます。

 

シリアルキラー展は、実在する殺人鬼達が残した絵や葉書、手紙、当時の新聞記事、中には下着までもが展示されている。その異空間にある種のエネルギーを持っているそれらが壁いっぱいに飾られていて、広いとは言えない二つの展示室を回るだけで一時間ほどかかる。

去年行ってはいたけど、今年は新しく見る作品も多くあった。特に一番印象に残ったのがウェイン・ローだった。

シリアルキラ-は、家庭環境が不遇である場合が非常に多い。両親がドラッグやアルコール依存症なのは当たり前、虐待、離婚、貧困、そういった問題を抱えていたシリアルキラーが多い中で、ウェイン・ローはそういった問題が見当たらなかった。父親は空軍戦闘機のパイロット、母親はバイオリンの指導者、ウェイン・ローも7歳でバイオリニストとしてデビュー、その後バスケットチームにも所属、成績優秀。経歴だけ見ていると何の問題もないように見える。

そんな彼も銃乱射事件を起こして二名死亡、四名の重症者を出す事件を起こしたが、彼の作品として展示されているのはかなり奇妙な写真だった。海をバックに佇む女性や、道の真ん中で楽しそうにジャンプする女性などの写真など、その顔の部分が糸で刺繍して見えなくなっている。他にも女性が座っている写真では、顔や手など肌が露出している部分が全て黄色で塗りつぶされていたり、かなり異質だ。見た時に狂気を感じて思わず鳥肌が立ってしまった。実際に見てみないと伝わりづらいとは思うけど、公式ホームページで一点だけウェイン・ローの写真が載っていたので是非見て欲しい。

ウェイン・ローが殺人に至ったのは、神や悪魔の影響ではなく、自らの怒りの産物だと語ったらしい。刑務所内でのインタビューに答える際に、若い人達に何か伝えることはあるかと問われた時に、

「あなたが愛しているものが奪われたくないのであれば、他の人の愛を奪わないことです。――もう誰も私の話など聞かないと思いますが。」

と答えたという。最後の自虐的な言い方が気になって仕方がない。ウェイン・ローはどんな人だったんだろう。何を思って人を殺したのか。ウェイン・ローは何かを奪われたんだろうか。

 

今回、シリアルキラー展二回目ということで、どうしてももう一度見たいものがあった。エドワード・ゲインの署名入りの聖書。手の平サイズの本当に小さな聖書で、長年ずっと肌身離さず持っていたようにボロボロになっている。エド・ゲインは、狂信的なキリスト信者だった母親の元で育って、性的なことは汚らわしいと言われ続け、他の人と交流することも許されなかった。そうして歪んで成長してしまったエド・ゲインの人格の破片がこのボロボロの聖書にあるんじゃないかと思うと、目が離せなくなってしまった。それが今回も展示されていて、もう一度会えた喜びでずーっとショウケースの前で眺めていた。

元々「羊たちの沈黙」の映画を見てエド・ゲインのことを知って、展示会で彼の名前があるのを見て心躍った。エド・ゲインが実在していた証が見られる。非常にドキドキしながら展覧会に行ったら、なんとエド・ゲインの墓拓があった。墓の拓ってなんだ。魚拓でもあるまいし、墓の拓なんて取るのか。新しすぎる。今回も後期にしっかり飾ってあった。ちなみに、他のシリアルキラーでは遺髪とか書いて飾ってあるのもあって、なんというか、H.N氏のコレクター魂には脱帽という感じだった。

 

今回は後期も含めると三回目というのもあって、後半になってくるといくつか見たことのある作品もあった。H.N氏がシリアルキラーの内面に触れられるような作品を意識して展示していると語っていたので、新しく見に来る人達のために同じものも飾っていたのだと思う。日常的に見るものではないので、同じ作品が飾られていても何度でも見たい。

展覧会を開いたコレクターのH.N氏は、パンフレットの前書きで、シリアルキラーにまつわるものをコレクションする複雑な心境を語っていた。誰に見せるわけでもないコレクションが1000点も超えて、一体何をやっているのだろうと漠然とした感情に襲われるという。彼らの物語に踏み込み過ぎないように、普段はコレクションを自宅の一番奥の部屋に閉じ込めているらしい。シリアルキラー達も気になるが、H.N氏自身のことも気になってしまう。どんな気持ちでコレクションしているのか、どんな人なのか。あんなに力を持っている作品たちと一緒にいて、自分が壊れないんだろうか。きっと自分をコントロールするのが上手な人なのだと思う。私がもし「エド・ゲインの聖書をあげるよ」と言われてもきっと受け取れないと思う。30分でも3時間でも眺めていられるけど、ずっと一緒にいられる自信はない。エド・ゲインの見えない力みたいなものが強すぎて、きっと自分が不安定になってしまう。

私も、シリアルキラー達が遺したものに何故心惹かれるのかはわからない。興味本位、怖いもの見たさ、どちらもある。でも一番は、シリアルキラー達が同じ人間であったことを感じたいと思っている。同じように息をして、ものを食べて、誰かを好きになった人もいたのに、どこか根本的に何かが違ったのか、それとも少し何かが変れば自分も同じような道を歩むのか、それを作品たちを通じて感じ取りたい。

シリアルキラー展に展示されている作品はどれも強いエネルギーを持っているから、対峙しているだけで相当の体力を使う。出た時はいつもへとへとになっていて、必ず帰り道に喫茶店に寄ってしばらく体と心を休ませなければいけない。

きっとまたシリアルキラー展があったら、懲りずにせっせと足を運ぶんだろう。そして、シリアルキラー達の内面に触れたいような、触れたくないような、自分でもよくわからない気持ちを持て余して、見終わった後には清々しいようなもやもやしたような感情になるんだろう。それが気持ち良いので、結局どうしようもないのだ。