イエローナイフは朝

それが人生

深夜の散歩

眠れないということがほとんどない。

大抵は仕事で疲れて、ご飯を作って、お風呂に入ったらそのままベッドに倒れ込む。

休みの日でも、本を読んだり映画を見てだらだらと過ごしても夜は眠くなるし、たまに友人と飲んで帰りが遅くなれば、酒の力でたちまち眠くなる。

だけど、もしいつか、眠れないなんてことがあったら、深夜に散歩に行ってみたい。

今なら寒くなってきたから、コートを着て、歩きやすい靴を履いて、そっと扉を開ける。音を立てないように鍵を閉めて、息が白いことに驚くかもしれない。

静まり返った住宅街の中に立っている電灯がジリジリ音を立ててるのを聞きながら、昔よく遊んだ公園まで歩く。ものの数分もかからない。真っ暗な公園の真ん中に街灯があって、そこの周りだけ明るい。

数少ない遊具の一つ、ブランコに乗ってみる。自分の背が伸びたから小さく感じる。漕ぎ出したら、きっとギィギィ音がすると思う。もうあの公園の遊具は古いから。あとは滑りの悪い滑り台と、曲がった鉄棒と、小さな砂場しかない。

ブランコに飽きたら、公園を出る。住宅街を出て、大通りに出る。車道を照らす濃いオレンジ色の街灯を見る。信号機は深夜だからきっと点滅を繰り返している。

しばらく歩いたら、歩道橋がある。小学生の頃に登下校のルートだった歩道橋だ。昔より体力が落ちたから、登ったら息が切れるかもしれない。それとも、意外に短いことに気付くかもしれない。上に着いたら、車が通らない真っ暗な車道を見下ろす。柵に寄りかかりながら煙草を吸うのも良いかもしれない。母が病気になった時にやめたけど、時々吸うと美味しく感じる。

煙草の煙を吐きながら、空を見る。星が出ているか、曇っているか。曇っていてほしいと思う。天気の中で一番曇りが好きだから。

煙草を吸い終わったらまた歩き出す。歩道橋を降りて、車道沿いに歩きながら、また住宅街の中へ戻るルートに向かう。そっちの道は街灯が少なくて真っ暗の場所があるので、ゆっくり歩く。その頃になったら体が大分冷えてるかもしれない。

そうしてまた少し歩けば、家が見えてくる。きっと全部で20分もかからない。鍵をそっと開けて、音が立たないように玄関を閉める。冷たい体のままベッドに入って、あたたまるまでじっと待つ。そうしてる間に瞼を閉じて、何も考えずに睡魔が襲ってくるのを待つ。

そんな散歩をしたいと、ずっと考えている。